久しぶりに朝食を作ろうと思い自分の腹に手を当てて苦笑した。さすがに何日も食わず
にいると腹がなくなと思ってふと時計を見て愕然とした。
 時刻、十一時三十分。
「昼飯だな。この分だと」
「そうね」
 頷くとどうした物かと頬を掻く月夜の仕草に苦笑した。
「月夜、痩せた?」
「まあな。あんま物食ってなかったからな」
 肩を竦めると天頂高く上がってきた太陽に目を細めた。物を食べてなくても睡眠さえき
ちんと取っていれば平気だ。
「とりあえずなんか作るから待ってろよ」
 そう言うと月夜はキッチンに立って冷蔵庫の中身を見た。
「ねえ」
 穏やかな声で何気なく声をかける。月夜は物を切っていたが顔をあげてリビングで座っ
ている夕香を見た。
「なんだ?」
 穏やかな声に反応する低くて温かい声音。夕香は無性に嬉しくなって目を伏せた。
「任務どうだった?」
 そう訊ねると月夜はふっと息を吐いてとんとんとんとリズミカルな音を響かせ始めた。
「そうだな、たいした事はなかったけど、霊力の供給量が半端なかったからな」
「どれぐらい?」
「俺は五回ぐらい休んで送ったけど他の人は十回だのなんだのってかなり多い量だ。……
文祭どうなったんだ、そっちはそっちで」
 そう訊ね返して夕香に目を向ける。胡桃色の髪が日を受けてきらきらときらめいている。
「うーん、微妙。一方ダンスに決まってもう一方は劇だったのにライブがどうとか言って
るし……」
「二つ一緒にやるのか?」
「まあそんな感じにまとまってる。てか、和弥がまとめた」
 夕香の言葉になんとなく分かってしまって何度も頷いた。あれは短気だからなあと達観
したように思って包丁についたねぎを手で取ってフライパンを取った。
「なにつくってんの?」
 もう待ちきれないのだろうか。夕香が立ち上がって月夜の手元を覗き込んできた。
 台所の台に乗っている食材は、溶き卵とご飯とねぎと細切れのベーコンと調味料だった。
 月夜は手馴れた手つきで油とごま油をフライパンの中に入れた。そしてしばらく熱して
から卵を流し込んでお玉でそれをかき回してご飯をいれ、ベーコン、ねぎと入れて一気に
熱し始めた。
 ご飯に卵がいい感じに混ざってベーコンとねぎがその周りに散っている。塩を一つまみ
とこしょう少々、昆布汁を一気にフライパンの中に入れて全体的に味をつけて火を止めた。
「炒飯?」
 訊ねると月夜はさらに盛り付けながらうなずいて盛り付け終わった皿を夕香に渡した。
夕香は二皿分受け取ってテーブルに置くと月夜は箸を持って夕香のところに来た。
「ほら」
 差し出された箸を受け取って夕香は月夜の向かい側の席について月夜が席につくのを待
った。月夜は席について手をあわせた。夕香もそれに習う。そして声をそろえて言った。
「頂きます」
 低い声と心底嬉しそうな声が二つ混ざって温かい部屋の中に響いていった。
 そして、二人は黙々と皿の上にあるご飯にがっついていた。
 言葉は要らない。ただ、互いが近くに存在する。それが必要。ただ、それだけ。そんな
二人の声が聞こえそうなくらい二人のはぴったりとはまっていた。
 まだ、一緒になって、五ヶ月。まだ、半年も経ってないのだ。
 まともに話すようになってから四ヶ月。友達より親密な雰囲気になって三ヶ月。
 まだ、それしかたってないのだ。――不思議だ。
 互いに、たまに考えるのだ。なぜ、こんなにもいきなり互いの距離が近くなったのか。
だが、その答えは得られていない。
 ふと、二人は互いに目を合わせて一斉に吹き出した。ご飯粒は散らばらなかったが月夜
がむせた。夕香は何とか飲み込んでけたけたと笑っている。
「なによ」
「それはこっちの台詞だ」
 あのときと同じセリフでも、今はこんなにも違う。暖かな雰囲気がある。月夜の穏やか
で優しい眼差し。屈託なく笑う夕香。
 こんなにも二人は変わった。互いのお陰で。
 穏やかに笑いあう二人を真昼の太陽は暖かく照らし出していた。



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